個人で海外から樹脂製ツマミを5000個量産して輸入するまで
製造現場で起きていること。
この連載では、tueksが個人でモノを量産する際に立ち行かなくなってしまいそうな困難をどう乗り越えたかを記録する。
初回は樹脂製ツマミ量産のお話。一見なんの変哲もない部品だが、その調達は個人にとっては困難を極めた。インターネットの海を奔走、個人では使えない商社、果ては国際商取引。個人メーカーのリアルな最前線がここに。
2026.6.29
MOQは2万個ですね。
1. ツマミが足らんのです。
monotoneという製品を出し始めた2023年頃、製品終息の危機は唐突にやってきた。
ツマミが、ない。
元々秋月電子通商で購入していたツマミが、突如秋月から姿を消したのである。たかがツマミ一つで何をそんなにと軽視するのも無理はない。だが、そのつまみに全てを握られていると言っても過言ではないほどに、monotoneのデザインのキーパーツはその樹脂ツマミであった。秋月で普段から購入している部品が無くなったら、あなたはどうする?もしそれが、自分が苦労して意匠登録した製品のデザインの根幹だったとしたら.....
これは、簡単に意匠を変えられず、商社とのやりとりも難しい弱小個人メーカーが樹脂ツマミを5000個量産して個人輸入するまでの記録である。
秋月で突如販売終了した樹脂ツマミ
2. 救世主現る
秋月に商品リクエストフォームを送るも虚しく3ヶ月が経過し、まずは自分の師匠に相談した。どうしても欲しい部品が秋月で取り扱い終了してしまったこと、国内で買える場所がないこと、樹脂ツマミメーカの公式サイトにはMOQ(最小発注数量)が2万個で個人ではとても捌ききれる数ではないことを伝え、どうしたらいいかと泣きついた。すると、師匠の伝手で商社に繋いでくれた。ありがとう!これで助かった。用途と必要数量500個であることを伝え、きっと商社ならうまく部品を少なく購入してくれる/または大量に購入した部品を割高でも500個で売ってくれるだろうという甘い期待は一通のメールで打ち砕かれた。
商社:「MOQは2万個ですね。」
そんな公式サイトを見ればわかることを返信されましても、そこをなんとかするのが商社じゃないのかよ!と勝手に期待して勝手に失望した。向こうも商売である。金にならない個人の要望に対して貴重な工数を割いてまで取り合ってくれただけでも感謝するべきだとは今になって思う。でもまあもうちょい頑張って欲しかったなぁ。
3. ドキドキの1stコンタクト
相手は台湾メーカーで、AlibabaやAliexplessなどという個人メーカーにお馴染みの部品プラットフォームには一歳顔を出していないメーカーであったため、これといった部品調達ノウハウはネット上では発見できず、もう聞くしない。樹脂ツマミメーカーに意を決してメールを送ることにした。
tueksとしてmonotoneを量産しており、日本で購入する場所がないため該当の部品が必要であること、商社は経由することが難しこと、必要数量は1000個程度で、できればMOQを減らすことができないか、使用アプリケーションと想定出荷台数、年間部品使用数量を明記し、意を決して英文メールを送った。
「MOQは2万ですが、社内で特別に検討を行った結果、MOQを1万個にすることが可能です。」
すごい!言ってみるもんだ!
4.初めてのインヴォイス
ここで商取引についての簡単な説明をしよう。まず、部品を購入する場合は品目を告げ、用途と予定数量を聞くのが日本メーカー間ではマナーとなっている気がする。発注可能数量の確認が取れたら、見積もりを依頼するわけだ。見積もりに納得したら正式な請求書:インヴォイスを発行し、製造・発送・受入れ・請求書払い、といった一連の流れがある。
しかし今回は輸入となり、いわゆる国際商取引を行うことになる。最小発注数量を1万個に負けてくれたからといって、乗り越える壁はまだまだ沢山あったのだ。
台湾メーカーが発行してくれた見積書には見慣れない文字がたくさん書いてあった。
「EXW Taiwan, 10000pcs, US$0.195/PC」
全然わかんね〜!
まずEXWについて、jetoroのFAQによると「EXWは、インコタームズ規則の一つで、売主が、売主の施設またはその他の指定場所(工場、製造所、倉庫など)で物品を買主の処分に委ねた時に引き渡しの義務を果たすことを意味します。この規則では、売主は物品を引き渡す際、車両に積み込む必要もなく、通関の義務もありません。よってこの規則は、インコタームズの中で売主にとって最もリスクと費用負担が少ない規則です。」
つまるところ、「EXW Taiwan, 10000pcs, US$0.195/PC」というは
「作ったら輸入についてあとはよろしく!一個当たり0.195ドルで1万個の条件ね」
ということらしい。ぶっちゃけ、ツマミ如きに30万はやりすぎだろこれ。しかも配送業者自分で手配するの?オワタな状況である。さあどうする...
樹脂ツマミが順序よく並んだmonotone。
頑張って設計しても、部品が手に入らなかったら意味がない。
5.値段交渉
予算オーバー、果ては通関業者の自主選定を強いられたこの状況は中々の逆境である。もう正直ベースで交渉を行うことにした。
「私は個人で生産を行っている小規模メーカーで、予算が20万円しかないです。本当にごめん。ドル円がすんごい動いてて予算読めないので円建てして欲しいし、配送についても難しので、OCSとかを使って手配してクレメンス。」
というぶっちゃけを実施した。もうなりふり構っていられないので、正直にお願いした。一週間音沙汰がない。終わったか、と思ったその時である。
「社内で議論し、この度特別にMOQは5000個、円建てで一個40円でどうだろう。日本には輸出実績がある通関業者で手配します。」
神回答来た!本当にありがとうございます。メーカーには特別の感謝と、今後の取引に向けた大きな一歩という点を強調してメールを返信し、手取り足取り教えてくれた台湾メーカには本当に感謝した。中国で基板を作ってもらうのはこんなに簡単なのに、いざ工場から部品を買い付けるとここまで大変なのだと実感した。
6. 国際送金って何?
うかうかしている場合ではない。部品と通関業者の配送料が載ったインヴォイスにサインし、いよいよ正式な取引が開始された。入金が確認できたら生産開始の取引条件だったため、早急にお金を送る必要がある。そう、工場直販の場合、PAYPALやクレカなんてものは使えない。台湾の口座に銀行振込する必要がある。これはいわゆる国際送金というやつで、調べると色々な方法が出てくる。日本で馴染み深いゆうちょ銀行は国際送金に対応しているということで、いざ送金と思ったがこれもうまくいかない。初めての国際送金サービスでは着金まで最大1か月を要し、支払い期限を大幅に超過する可能性が高いことと、一回あたりの送金限度額も決まっているため複数回に分ける必要があると言われてしまった。これでは超頑張って契約した目の前のインヴォイスがパーになってしまう。
調査を重ね、WISEという送金サービスに辿り着いた。すぐに口座を開設し、30万ほどWISEに入金し、恐る恐る送金ボタンを押す。なんと一瞬で完了してしまった。
「着金を確認しました。製造完了しましたら、連絡します。」
ありがとう、台湾のやさしき友。
2か月後。
海を越え、時を越え、ワイの想いが沢山詰まった樹脂製ツマミ5000個が到着
7. ツマミを買うのに4か月。
メールを確認すると、1stコンタクトを取ったのが2月、部品発送の連絡が6月とあるので単純計算で4か月は掛かったことになる。ネットの海を奔走し、商社とやりとりしていた期間を含めると半年以上に及ぶツマミ大航海時代は2025年6月に決着がついた。ここでの学びは、電子部品一つ一つの重要性である。たかがツマミ、しかしツマミ、されどツマミなのである。個人メーカーは部品一つ一つの市場流通に目を光らせ、調達方法を確立しておく必要がある。私たちの大好きな秋月は、個人の趣味には使えても量産には使えないということをよく覚えておこう。
今回解除した実績はその後のtueks製品のBCPを大きく向上させた。例えば、主力製品であるBT-02等に使用しているバッテリーも国内在庫が尽きた際に海外メーカーに直接連絡をして取引をすることで同じモノを安く大量に仕入れることができた。
今回はリスク承知で身銭を切ってなんとか成功させた国際商取引だが、時間も掛かれば、一度に動く額も桁違いに大きい。正直みなさんにおすすめできることではない。ただ、どうしても欲しい部品が手に入らない時、自分の力で何とかできるということを知っておいても損はないだろう。このツマミ奮闘記が誰かの部品調達の手助けになれば幸いである。
あーものづくりめんどくせ!
無名の個人メーカーを邪険にせず取引を行なってくださった台湾メーカーの皆様、本当にありがとうございました。
文/写真 tueks