第一回  tueks x Yashiro

仕事という切り口で人物像に迫るtueks x...

この連載では、tueksが過去に仕事依頼をした人物にインタビューを行いその素顔に迫る。


第一回のお相手はYashiroさん。自宅でMRIを作るプロジェクト"Home Made MRI"を世界で初めて行い、エンジニアひいては研究者から注目を集めている。今回のインタビューでは彼の趣味であり、tueksが過去に仕事を依頼した「カメラ」に焦点を当て、人物像に迫る。MRI作りのきっかけから、癖(ヘキ)の写真、そしてそれらに通ずる根源的な彼の思いが明らかにされていく。

2023.10.13

MRIって、なんか、やばいね? 頭おかしいね(裏声)

-----自己紹介をお願いします。

中学校卒業後、普通だったら高校に行く所を私は高専に進学して、医療福祉という医療機器を作ったり・使ったりすることを学ぶコースに入りました。高専で学んだ後に長岡工業大学に3年次編入して電気電子分野をを大学院まで学ぶという感じの人生でした。

MRI作りは最近始めた趣味ではありますが、カメラに関しては実は中学2年生くらいの頃からやっていて、実家にデジタル一眼レフがやってきた当時から家族旅行のカメラ担当としてずっと撮影をしていました。なのでカメラを触っている歴は長いけれど...ちゃんと撮り始めるようになったのは大学院の頃ですかね。元々カメラで作品撮ることは好きだったんだけど、やっぱり手軽にできる趣味が欲しいということで、ちゃんとカメラをやってみようかなと。SNS依存もあったんだけど。なんかこう、相性いいじゃないですかカメラとSNSって。シナジーがあるよね。写真載っけると誰か反応くれたりして「あ、楽しい〜」みたいな。

っていう感じで、写真をやって参りました、やしろです。


-----Yashiroさんは現在MRIを自作されていますが、高専時代の医療福祉コースで学ぶ際にMRIに興味を持たれたということですか。

うん、高専時代にMRIの授業があったんですよ。MRIの原理について学んでみよう、みたいな。でも一個もわかんね〜!って感じで当時は全然興味が無かったんですよ。MRIって、なんか、やばいね? 頭おかしいね(裏声)くらいの印象でした。ただ、レールガンやコイルガンを作っていたので電磁気の素養があったんですね。それで、MRIは電磁気的にヤバいものだってことがすぐに分かって。1.5Tっていうすごい強力な磁場の中で数pTくらいのすっご〜い弱い信号をとるってことを聞いてうわヤバ〜みたいな。10^(-24)~!つって。


-----大学院で長岡に行くと、忙しくて病んでしまう人も沢山いると聞いたことがあります。カメラ趣味は現実逃避という一面もあったのですか。

うん、現実逃避のカメラって感じでしたね。わー研究室行くのヤダ〜!授業サボって海行こうって。カメラはお出かけ要素が発生するのちょっと楽しいよね。つえくす(tueks)のチャリと似てるかも。


-----Yashiroさんの写真はかなりキリッとした印象があります。意識的にそのように撮影されているのですか?また、そのような写真に行き着いた理由を教えてください。

癖(へき)っすね。ガチガチのシャープな写真がすごい癖(へき)で。ピント面にバシッとピントが当たってかつ周りがぼやけてるっていう風にすると、ぼやけとピントが合っている所でコントラストが出来て、それでシャープさがすごい増すんですよ。これを意識して撮っているので、みんなから「すごいピントが合ってる」とか「すごいバキバキ」とかってよく言われる。これはカメラの性能だけじゃなく、撮り方に依る部分も結構ある。カメラの性能に依存せず、私は結構シャープな写真を撮れる自信がある。

ただ、元々は記録写真がメインだったんですよ。旅の過程を撮ることが好きだったので、ぼやかすってよりかはパンフォーカス(全部に焦点があっている)の写真が本当に好きで。でも大学院に入って作品撮りを始めると主人公とサブを分けるためにぼかす必要がある。ただ、主役はパキッとしていたい。中学時代の記録写真撮影から作品撮りに変化する過程で、主役を際立たせたいという思いから背景のボケと反対の要素であるパッキリシャープネスな写真を撮るようになりました。

最近は全部の写真が作品撮りという意識で撮っています。旅行に行っても、記録写真ってよりかは作品撮り。背景をぼかすと、立体構造が2次元の中に距離情報として映し込まれるじゃないですか。それも結構好き、みたいな。


-----主人公として撮っているものは何がありますか。

ここ数年では自然。波とか花とかばっかりかな。本当は人も撮りたいんだけれど、人を撮るのは結構大変だからね。コミュニケーション発生するし。コミュ障なので、人を撮らずに、自然。


-----お気に入りの写真を見せていただけますか。

お気に入りで行くとね、人になるんだよねこれが。


お気に入りの写真を探すYashiroさん。


(お気に入りの写真)これ。

Yashiroさんお気に入りの写真 1 大学院時代の自信作。

-----ドァー!すごい!Yashiroさんの写真は青っぽくてキリッとしてるイメージがありましたが、セピアなカラーにレタッチすることもあるのですね。この写真はどちらで撮られたのですか。

場所は長岡で、研究室の隣。作品撮りを初めて一年くらいで撮りました。

先輩と話しながら歩いていたら、ここは絶対に周りの背景がいいなと思って。明るくて逆光になるから絶対に人が際立つことがわかったので「先輩、そこ歩いてもらっていいですか。」って、その場で歩いてもらいました。


-----他に大学院時代のお気に入りの写真はありますか。

他はなんだろう、上手く撮れてるわけじゃないけど結構楽しかったのが除雪車かな。

Yashiroさんお気に入りの写真 2 除雪車。

-----迫力があり、とてもかっこいいですね!

朝の5時のめっちゃめちゃ寒い中30分くらいず〜っと待って、「来るかな、来るかな、来るかな、来るかな、   きたーーーー!!!!」つって。

除雪車は歩行速度くらいで移動するので、前から撮ってると中の人が手を振ってくれたりして楽しい。除雪車って近くで見ると迫力がすごいんですよ。これ、納めて〜って思って。


-----最も気に入っている写真はなんですか。

玉ボケが私大好きなんですよ。それでいうと、嫁の写真が一番お気に入りかもしれない。

Yashiroさんお気に入りの写真 3

-----すごくいいですね。玉ボケの玉が大きいです。

これはね、めちゃくそでかいレンズを使ってる。レンズがでかいと背景ボケがでかくなるので玉もでかい。奥に太陽があって、海で反射しているキラキラが玉ボケになっています。


後半では、Yashiroさんの写真撮影に影響を与えた作品、そしてMRI作りと写真撮影に通ずる根源に迫る。



美しさの根源みたいなものがあって、そこから分岐して写真があり、MRIの設計がある。


-----以前私にカメラの指導をしていただいた時に、かっこいい写真をいっぱい見ておくことが重要だと仰られました。Yashiroさんが写真に関して影響を受けている物や人、作品等はありますか。

映画かな、多分。自分の中に「美しい」と思うニューラルネットが出来ているんですよね。ファインダー覗きながらこうかな、こうかな、って探っていると、途端にビビッと来る瞬間があって、「美しい!!!!!!!」つって。そういう感覚が培われた所って、ほとんどが映画とか、色々見てきたもの...本当に全てなんですよね。映画が5割、写真作品3割、残りは日常生活かな。

映画はSFが好きで、最も影響を受けたのは「インターステラー」ですね。もしこの映画を見るんだったら最初は別の映画でSF慣れしておくほうがいいかもしれない。SFって「すこし・不思議」って訳し方があるんだけど、そのくらいには不思議要素があるんですよ。なので、SFの文脈に慣れておかないと不思議がいきなり出て来て「なんだこれは!?」ってなるかもしれない(笑) 

特にクリストファーノーランの映画はすごくカメラ機材にこだわっていて、映像がかなり良い。構図が一個一個良いし、全てが無駄なく説明されているけど、説明的じゃない。っていう感じがすごい綺麗な作品ですね。あれはもう「ずる〜!」ってなる。「映像ずる〜!」って。この監督は、世界に5台しかないようなカメラを使って、それを海に沈めたりするヤバい人なんだよ。なので映像へのこだわりが本当にすごい。CGとかもできるだけ使わない。


------Yashiroさんは写真を撮った後に調整するのは色味だけで、それ以外はほぼいじらないというイメージがあります。それもクリストファーノーラン監督の作品が影響していますか。

あると思う。自分が写真を撮るときは 現実の、ある美しさをアンプリファイする、増幅させるようなことをよくしますね。なるべくその作品自体が良さを持っていて、それを増幅させる方向で作品撮りをやっているかな。周りに置いてあるものとかも、「撮る前に、なんとかしてね!」みたいな感じで。


-----MRIを撮るときに意識することってありますか。

ない。MRIはないかな(笑)

でも、一回だけMRIを東北大に納める時に、「お別れだ、撮ろう。」って時があったかな。


-----私は、様々なことが結びついているんじゃないかなって思うことが多くって。例えば自分の場合だと、生まれ育った環境が自分の作品に現れているなと思うことがあります。Yashiroさんの写真はMRI作りに影響をしていたり、何か結びつきがあったりするのでしょうか。

する。美意識ってところでする。機能だけじゃなくて、見た目かっこよくありたいなっていう気持ちかな。美しさの根源みたいなものがあって、そこから分岐して写真があり、MRIの設計がある。

機能美からくる見た目の美しさの中で一番美しいのがMRIじゃないかと私は思っている。MRIのコイルってめちゃくちゃ複雑な形をしていて、綺麗だなって思ったり。意味があるものに対してすごいかっこいいなと思っていて、逆にそうじゃないものは私はあまり好きになれないんだよね。例えば、スチームパンクの作品とかって意味がないところに歯車をつけていて、あれ!あれカッコよくねえな〜って思うんですよね。付いている何かが全部機能して何か一つの機能を成すとかなら分かるんだけど。これ本当にただ付いているだけだな〜ってのは。

全ての不要な要素を排除した結果美しいものが残っているのがMRI。そういうふうに思ってるし、全部機能して、その形に意味が宿っているというのが好きかな。


-----その点私も大変共感しています。モノのデザインって全部意味があると思っていて。スマホだったら角触った時に痛くないように丸くなっていたり、量産のことを考慮したときに最適な形状になっていたりします。Yashiroさんの写真に関しても、そういった風に意味合いを求めるのでしょうか。

写真も確かに、同じような意味で撮ってるかもしれないな。人工的に作るものだったら極めるし...マクロ撮影とかだと、たんぽぽの綿毛に水滴を置いてみたりもするんだけど。あれはあれで好きだけど、意味がこもっていないなと思っていたりして。...難しいな。スナップっていう、あるがままを撮るっていうのがやっぱり好きかもしれない。


-----撮影対象として意味があって美しいという点で、自然物を好むのでしょうか。

そうですね。私は結構木の枝だけとかを撮ったりします。機能美みたいなものがあって、美しいなって思ったりする。機能美という点で、自然物や風景を好むというのはあるかもしれないね。人工的に配置したものはそれはそれでいいんだけれど、極まっていないことが多いんですよ。これが全部ばっちりコントロール下にあって決められるならいいんだけれど、そうはいかないじゃないですか。

その点インターステラーはバッチリ決まってる。あれは全部作ってる。例えばトウモロコシ畑を焼き払うシーンがあるんですけど、全部とうもろこし植えてあるんですよ。2k平方メートル小くらいのトウモロコシ畑が作ってあって、その中で飛行機を飛ばしたり、車で全部薙ぎ払ったりする映画なんですけど。それ、とうもろこし全部畑からつくるんですか!?っていうヤバさがある。ブラックホールのシーンもあるんだけれど、それも全部シミュレーション用のコードを書いていて。それもC++で4万行とかあるコードを。そこまでする?ってくらい絵に対するこだわりが異常にあるんですよね。ストーリーは勿論いいんだけれど、絵に対するこだわりが本当に異常。


たんぽぽの綿毛に水滴を置いたYashiroさんの作品


枝。Yashiroさんの作品


-----話は変わりますが、以前私の作品ex-01を撮っていただいたことがありました。物撮りをする際に意識していることはありますか。

持っている要素は最大限に出す、っていうのがあるかな。それで行くと、つえくすの作品は鏡面があるじゃないですか。その鏡面をできるだけ美しく見せたい!って思った時に、イメージするのは水面なんですよ。テーブルの上にex-01が置いてあって、少し外の光を反射している写真があると思うんですが、あれはすごく水面を意識しました。あとは透明であるという要素があると思うんだけど、以前アイコンにしていただいた黒背景の写真は、透明であることをできるだけ増幅しようと思って撮ったりしました。

物撮りであっても白背景の商品単体写真をとるのではなく、シチュエーション写真を撮ったのは消費者がイメージしやすいからっていうのがある。生活の中にあったときにこれがどういうふうに化けるんだろうって。白背景だと、せっかくの鏡面が白しか映らないじゃないですか。でも、日常の中においたら窓の光がこういうふうに映るよ、とか、透明感がこういう感じだよ、というのが強くアピールできたらいいなと。

Yashiroさんに撮影していただいたex-01の写真


-----ここまでたくさんのお話をありがとうございます。インタビューの中で、Yashiroさんも実は気づいていなかった自分自身の根源的な部分についてお話が伺えたのではないかと思います。

そうね。映画とカメラと、MRIとの結び付きってあんまり考えたことがなかったけど、話をしてみると、意外とつながりがあるかもしれないね。

映画の美意識っていう話は、カメラをやる色々な人が話をしているかもしれない。カメラのレンズをわざわざ映画用のレンズを使う人もいる。映画用のレンズって、楕円だったりするから玉ボケも楕円になったりするんだよね。


Yashiroさん


-----この人はいい写真撮るな!って思う方はいますか。

有名どころだとソールライターとか。ニューヨークとか街中でスナップを撮ったりする人。あとはフォロワーにLiam Wongっていうネオン街をバキバキの色合いで撮ったりする人もいる。

あとは鉄道写真家の中井精也さん。普通の鉄道写真って電車ボーンって感じで頭から尻まで 全部写すみたいなことをするんだけど、その人は構図がイカれてて。玉ボケ9.5割、電車がここ!みたいな。はい、出た出た〜!みたいな。私は大好きですね。通常の鉄道写真の良しとされている写真、もうそれ誰が撮っても同じ一番最後の正解にしか辿り着かないじゃん!はい個性0〜って思っちゃう。でもその写真家は全然違う。個性全振りというか、これ大丈夫?っていう写真を撮る。マジでね、その人はコンシューマ向けの安価なカメラのカメラレビューでも全く同じ構図で撮るっていう(笑)

-----何か周知しておきたい告知事項はありますか。

来年のオフ会、みんな来てね! 2024年9月頃にやるので、よろしくお願いします。

あとはMFTとかNT東京とか。

*Maker Faire Tokyoは2023.10.14-15に東京ビッグサイトにて開催。

*NT東京は2023.11.4-5に科学技術館にて開催。


-----最後に、ファンの皆さんに一言!

人生を、意味で満たしてほしい。


-----都内某所、2023年10月。晴れた日の公園にて。

文/写真 tueks