第五回 tueks x ヤダニウム
仕事という切り口で人物像に迫るtueks x...
この連載では、tueksが過去に仕事を依頼をした人物にインタビューを行いその素顔に迫る。
第五回のゲストはヤダニウムさん。プロダクトデザイナーを目指す彼女のデザイン観とは。大学受験から研究、仕事に対する姿勢、そして創造性の源に至るまで。
2024.6.7
機能性を上げていく純粋な文具作りのフェーズではもう時代的になくて。
-----えとせとら研究所以外の肩書きや活動は何かされておりますか?
そうですね......私が今、どう名乗ればいいのか。何にも所属していないんですよね、この4月に大学院に来てからは部活にも所属していなくて。ヤダニウムでしかないんですよね。
大学院に来てからは3Dプリンターの材料の研究をしています。
具体的には大型の3Dプリンターを扱っている研究室で、フィラメントではなくペレットを溶かして作っているんですよ。すっごい太いノズルで。積層であることは家庭用のプリンタとは変わらないんですけれど、材料を調達するところからやろうという取り組みをしております。街から出たプラスチックごみを分別して集めて3Dプリンターで出力する時の条件を出したり。
街から出たゴミが最終的に街に置くことができる...例えば家具や植木鉢になることで街にリターンする。街から出たゴミが街に還っていく、という循環に重きを置いていますね。
-----えと研メンバーをはじめ多くの仲間たちがいるCIT(千葉工業大学)を離れて別の大学院へ進学したのは何かきっかけがあったのですか?
そもそも大学院に進むつもりがなくて、就職しようと思っていたんですよ。
ずっと文具メーカーのプロダクトデザイナーを目指していたんですけれど、学部の研究室で産学共同で進めていたプロジェクトの一つに文具メーカーがあって。文具メーカーから与えられたお題を元に新しい文具を作るっていうコンペ形式のものだったんですけれど。
そこで求められていたのが文具の性能を向上させていくっていう「機能性を上げていく純粋な文具作り」のフェーズではもう時代的になくて。進化し尽くしているじゃないですか、文房具って。今はそれに付加価値をつけて、雑貨的な展開になっているんですよ。
機能性を高めていく、ひたすらに書き味を高めていく、みたいなことの方が興味があったんでしょうね。機能を突き詰めて行きたかった。昔からファンシー雑貨とかは避けていて、「機能を極めた先にある形」というのがすごい好きで。
......この経験から自分のやりたいことは文具じゃないかもなと気付いてしまって、就活の方向性を見失ってしまい。それとともにコンペをいくつか受けている中で自分のデザイン力にも自信がなくなって。ポートフォリオにまとめられるほどの個人としての作品がちゃんとあったわけでもないので、もうちょっと頑張りたいな!と思っちゃったんですよね。
・・・
えとせとら研究所とかCITの電気研究部では中身の技術が作れる人たちの活動を人に繋げるためのデザインをしていました。
物はできたけれど、一般に受け入れてもらうような見た目が欲しいとか広報が苦手とか、そのためにはデザインが欲しいというのが電気研究部に浸透していって。デザインが大事っていう啓蒙活動や、デザインの力で技術と人をつなぐをモットーに活動はできたんですけれど、ユーザーに一番近い部分だけじゃなくて、中身までできたら最強なんじゃないかという気持ちになり始めて。材料や設計といったものを作るための根本部分をもっと勉強したいと思ったのが大学院進学の理由ですね。
-----文具メーカーで今必要とされている装飾には違和感を覚えているけれど、技術と人をつなぐデザインをしたいと。
2軸あるんですよね。元々小中学の頃からずっと考えていた「文具デザインをしたかった」という軸と、大学に入って電気研究部と関わるようになってから「技術と人をつなぐ」という新しく芽生えたデザイナー観という。大学院で技術を極めたいというのは最終的に人と技術を繋げるためにも中身を理解することとして終結するということで。
文具の話で言えば、人と技術を繋げるために必要だと思っている「技術を極める」という点が「文具の機能を追求する」ことに接続しているということです。
...人と技術を繋げるデザインをやりたい。そのために技術を理解したい。
ヤダニウムさん
-----デザインに興味を持ったきっかけや、デザイナーを目指した経緯を教えてください。
まず、私は文具がめっちゃ好きで。多分、プロダクトデザインを目指す人って最初に文具にハマるんですよね。これだなって。
小学校の自由課題で好きなことを調べて壁に貼るみたいな課題があったんですよ。毎週私は文具分解コーナーを作ってて。文房具分解してスケッチしたものと豆知識を書いて毎週壁に貼ってたんですよ。なんか本当に文具の仕組みとか機構が好きで、ホッチキスと修正テープがめっちゃ好きで。仕組みがわかっているから壊れた文具が私のところに持ってこられて治すとか。仕組みが好きだった。
文具を買ったりBun2っていうフリーペーパーを集めたりっていうのをしていたんですよね。スケッチ描くようになってからはカッコイイから製図シャーペンを買ったりとか。
・・・
文具を作る人になりたい!っていうのが小学生の時に生まれるじゃないですか。でも、デザイナーっていう仕事なんか知らないんですよ。
そしてその後にデザインあに出会いました。そこで色々な職業の人が最後に紹介されるんですけれど、デザイナーって職業ってあるんだ。この人が文具作っているんだ。ってそこで知って。
じゃあデザインってどうやって勉強するんだろうって思った時に、美大は受験が超大変だし、デザイナーになるための王道ルートは自分には無理かなと中学生の自分は思っていましたね。文系科目の方が得意だったんですけれど、興味の方向性は理科とか化学とか理系科目だったので、漠然とした方向性として理系を目指して高校生になるんですよ。
そこでこの本に出会いました。
高校生の頃に出会った本「観察スケッチ」
檜垣万里子さんが書かれた観察スケッチという本で。「これ私がやってた奴や!」ってなって。ノギス分解して絵を描いたりしてて。コレなんだよなぁって。プロダクトスケッチっていう技法や、プロダクトデザインっていうジャンルがあることを知り、やりたかったことが見つかったんですよ。大学を調べてみると理系大学のデザイン科に行けばプロダクトデザイナーになれることもわかったので、美大に行かなくてもこれができんじゃん!となって。工業系や理系のデザイン学科に絞って受験をしていました。
当時CITのオープンキャンパスにも行って。そこで材料研究も面白いかもなあとか、メタマテリアルとかにも興味がありつつもデザインを選び。そして今は別の大学院で材料を研究し、両方回収できたかなという感じです。
高校生〜大学生の頃のスケッチやノート。スケッチの原画は画面で見るより大きい。
-----実際に書いた絵やスケッチを見せてください。
これはハードディスクとか、ホッチキスとか。同じデザ科の人たちにもモチーフが独特って言われてたんですけど、こういうメカメカしいものを書きたかったんですよね。コピックとボールペンで描きました。ボールペンでまず描いた後に太めのマーカでなぞるとかして、コピックで全面塗った後に陰影つけつつ色鉛筆でハイライト入れたり、パステルで粉をつけて質感表現をしたり。四角い削ると粉になるクレヨンみたいなものがパステルなんですけれど。
後半では、ヤダニウムさんのデザインに対する考え方が明らかに。
モノはあればあるだけいいと思ってる。ミニマリスト、何をしてるん!?
-----いいデザインって、何だと思いますか?
無駄がないものです。機能を突き詰めた先の必要であるから存在している形が好きなんですよ。もう...装飾は、嫌いです。はい笑
ヤダニウム< 言い過ぎました!グラフィックは装飾するので!
-----影響を受けた作品や人はありますか?
文具とかは雑貨じゃなくて道具だろって思ってて。製図屋さんとか画材屋さんとか行くと「それをするためのもの」本質的な道具ばっかり売っているから、そういうところにあるものがかっちょいいなと思ったことはありますね。
全ての形とか全てのものに意味があるのがデザインだと思ってて。意図して作られたものがデザイン。偶然の産物ではなくて、ここはこういう意図があってこういう形にしたという全てに理由があるのがデザインだと思っています。それが軸にあるから・・・
影響を受けたものは画材屋さんとか製図屋さんに置いてある文具、道具ですね。必要最低限じゃないですか。必要だからあるじゃないですか。全ての部分に機能があるじゃないですか。そういうのが好き。画材屋さんとホームセンターが好き。
-----最近ご自身で製作されているものはありますか。
パテントコンテストで出したしたSSDケースです。これも装飾もなくてすごくシンプルな形をしていて無骨な感じなんですけど。それ一本で勝負して結果優秀賞をいただきました。
ケーブルやSSDは市販のものなんですけれど、元々使っていたケースが壊れてしまったので壊さないためのケースを作りました。市販されているケースはノートPCの横に置くだけで固定されないんですよ。差しっぱなしで移動した時に落として壊しちゃったので、その再発防止策としてディスプレイに嵌められるようにしました。
ねじを使わずにはめ込める形状にしたところもポイントですね。部品が多くて基板に影響があったら嫌だなと思って。
ヤダニウムさん作成の外付けSSDケース。PCのフチに嵌め込むことで落として壊すリスクを軽減している。
-----最近の制作におけるテーマを教えてください。
壊れたものの修理ですね。治す時に、ちょっと良くして治す。私のもの使いが荒いっていうのもあるし、性格が大雑把っていうのもあるんですけれど。
-----ヤダニウムさんマキシマリストでしょ?
そうです!!!!!!部屋の写真見てください。こんな感じで、これです。モノです。
モノはあればあるだけいいと思ってる。ミニマリスト、何をしてるん!?
やっぱモノがあると...創造性、部屋汚いと生まれるんじゃないか。っていう、持論。
めちゃくちゃ部屋綺麗だけどきっちり物作ってる人も居ますけどね。
はい、マキシマリストです。そうです。
ヤダニウムさんの部屋。創造性の部屋。/Photo by yadanium
-----ヤダニウムさんにはtueksプロダクトのex-02とBT-02のパッケージデザインをしていただきました。やってみてどうでしたか?
本当にありがたい経験で、ちょうどデザイナーとしての技量が足りないなと思っていたところだったのですごく貴重な機会でした。楽しかったです。大変だったんですけれど!
パッケージデザインのプロジェクトは研究室でやっていたこともあり初めてではなかったんですけれど、tueksパッケージは1から全部任せてもらったプロジェクトだったので自由に楽しくできました。
ヤダニウムさんがデザインしたex-02とBT-02のパッケージ。どちらも手に取った時のユーザー体験を制約の中で最大化するようにデザインされている。
ex-02のこだわりポイントは開けた時のワクワク感。いかにユーザーの体験をデザインしようかと考えつつ、なるべく費用を抑えるのが難しくて。ロット数が少ないと印刷物は高くなってしまうので自分たちで印刷してカットするところまで出来て、尚且つ市販品を流用したっぽくないかっていう所に気をつけました。
なのでex-02の元箱をダイソーで見つけた時はもうコレしかないなって思いました。でもこの箱だけでも面白くないので、パッケージとしての意図が必要だと思って。
開けた時のワクワク感がまず第一で、ギミックを色々仕込ませて、パッケージの裏面を見た時にクスッと笑えるイラストを取り入れられた...この辺りがポイントですかね。
超シンプルで必要最低限な完成形も含めてすごくいいデザインだなと思っています。
中身の保護と、ワクワク感と、中の物を最大限引き立たせるというパケージに必要なことを達成できてよかったです。
-----パッケージと一緒に説明書も作成いただきましたね。
説明書めっちゃ好きなんですよ。ちっちゃい頃から読んでて。説明書ってオモロいですよね。ここに書いてあるイラストって伝えるためだけに存在している絵じゃないですか。意味の塊、"言語"なんですよ。"言語"を"描ける"技能が付けられて嬉しかった。
いかにシンプルな線で伝えるかが結構難しかったし、楽しかったところでもあり。自分が作ったものではないものを説明するって結構大変だったんですけれど、元々のベースを見つつなんとか形にできました。
BT-02の説明書もすごく気に入ってて、コレめっちゃ良くないですか???
A4で出力して折りたたんでこの箱に収められるっていう効率の良さがいいですよね。かなりペーパークラフト。ペーパークラフトを脳内で作るのがすごく楽しかったです。これを実際に加工するのはtueksさんなので、加工の意図を伝えることができるということと、作業量もなるべく減らしたいということに注意して、いかに効率よく作れるかを考えてデザインしました。
折り目のところに細い線を入れたりとか...なるべく見た目も邪魔にならずに、作業者の手も煩わせないような工夫を色々な部分に取り入れています。
ex-02とBT-02の取扱説明書のデザインもヤダニウムさんによるもの。シンプルな線で読み手・作り手に対してのメッセージを伝えている。
-----今後の展望を教えてください。
これまでユーザー側に近いデザインをやってきたことを踏まえて、今後は基板引いてみたいなとか、もっとちゃんとプログラム書いてみたいなとか。もう1ステップ踏み込んでみようかなというのが大学院での目標ですね。
元々何かあったものの最後の仕上げだけではなく、1からやりたい。そういう勉強をしていきたい。
-----最後に一言!
部屋が汚いのは、創造の源。
-----2024年6月。神奈川県某所。
文/写真 tueks