回  tueks x にとちん

仕事という切り口で人物像に迫るtueks x...

この連載では、tueksが過去に仕事を依頼をした人物にインタビューを行いその素顔に迫る。


回のお相手はにとちんさん。彼は電子工作やパワーエレクトロニクス分野に精通しており、今回はパワエレ専門合同誌「パワーエレクトロニクス/ぱわみ社」復活について話を伺ってみることに。すると、彼の技術に対するひたむきな姿勢が見えてきました。

2023.10.21

舗装路を周回するのを思い浮かべる人が多いと思うんですけれど、自分がやっていたのは「逆」で。

-----自己紹介をお願いします。

にとちんです!

ぱわみ社の代表です。普段はTwitterで表現をやっているんですけれど、専門はパワーエレクトロニクス。

中学高校時代に電子工作を始めたこともあって、大学では電気を専攻しました。ですが大学では電子工作は実はあまりやってなくて... 自動車部に所属してから、創作活動というよりかは車の整備や車を走らせる方向に興味が出て、今もちょいちょい車をいじっています。

ニコニコ技術部のイベントNT京都では2013あたりに中高時代に出したっきり、あんまりタイミングが合わなくて今年のNT高の原までは出してなかったです。


-----中高時代もインターネットでの交流が盛んだったと。

中学時代はうえすたらぐとか実験室Dangerとか、その辺りが盛んな時代でしたね。その辺でTNKSくんとかdominoくんとかと出会って。その後超電同好会が高校生の時に出てきて、ぽんずくんとかOrionくんとか見て、賑やかになってきたなと。オフ会という概念がちゃんとあった当時は、日本橋のシリコンハウスや塚口商店で買い物してマクドで駄弁るっていうのをよくやっていました。

個人的にはうえすたらぐっていう、のじみさんが運営している工作ブログ団体が熱かったです。西の界隈がうえすたらぐ、東の界隈が実験室Dangerみたいな。shiroさんとか、すげー人が東にいるなって思ってました。自分は目立った作品は作ってないんですけれど、なぜか界隈の人といっぱい喋ってるみたいな。


にとちんさん


-----大学時代の自動車部での活動を教えてください。

自動車関係ではレーシングカーを作る学生フォーミュラにも顔を出していたんですけど、フォーミラとは別のレースに出る自動車部での活動が主体でした。

自分が出ていたレースはみんなが想像しているサーキットとはちょっと違います。舗装路を周回するのを思い浮かべる人が多いと思うんですけれど、自分がやっていたのは「逆」で。ダートトライアルっていう砂利道を走るものや、ラリーっていう山道を走るものをやっていました。大学に入ったときは自動車の整備をすることに興味があったんですが、入ってみたら競技者の方になっていたみたいな。

競技者としてはあんまり一生懸命じゃなくて、走るのが楽しいからやっているっていう感じで。順位を追いかけるのに興味がなくって。上位を狙うのは元々スポーツやっていた人ばかりで、なるほど、自分は所詮エンジョイ勢なんですねっていう。スポーツやっていなかったからスポ根が足りなかった。


----競技用の車は特別なものでしたか。

安全対策にロールバーっていう補強用のジャングルジムみたい棒を車に入れて、横転しても車体が潰れない対策をされたものでしたね。レースの時はダート用のタイヤと安全装備を入れてるくらいで、乗用車と比べて見た目の変化はないですね。

基本的には競技用にある程度できた車を先輩から引き継いで、悪くなってきたら整備する感じでした。電気関係とかは回路図読めるしやりやすくて同期が困ってたら助けたりしてました。ラリーをやるんだったら時間や距離を計算するラリコンを後付けしたりとか。


にとちんさんが乗り回していた競技車。


-----大学での研究内容を教えてください。

研究でまたぱわみのあることをやりたくて、双方向の絶縁型DC/DCコンバータを...最近だと直流マイクログリッドやEV、再エネ関係で使われる研究をやりまして。

今年のNT高の原では、ネットでもあまり見かけないコンバータだったので展示してみました。

NT高の原2023で展示した双方向コンバータ/共振型スイッチトキャパシタコンバータ


-----こちらのコンバータの詳細を教えてください。

この双方向コンバータはSST(Solid State Transfomer)と言われるものに使われます。直流送電の直流電圧レベルを変えるところで、交流だったら変圧器を使うんですけれど、ここではDCグリッドの中低圧400V~十数kVの変換を行います。方式としては、今注目されている回路の一つである共振型スイッチトキャパシタコンバータを工夫したものになります。

こちらの回路は十数kVの電圧に耐えられるようにコンデンサとスイッチング素子を直列に接続して使うことができて、現在直流送電の現場でよく使われているMMCと違って電圧・電流バランスがセルフバランスするのが特徴です。動作上自動で電圧バランスするため、MMCの対策技術として注目されるようになったものですね。


-----他に行っていた研究について教えていただけますか。

学部の時にDABコンバータをちょっとだけ。もう一つは大学院時代にLLCコンバータを双方向化したCLLCコンバータを研究していました。

大学院時代に研究していたCLLCコンバータ


-----LLCコンバータは負荷が大きく変化すると動作できる電圧範囲があまり広くないイメージがありますが、どういうアプリケーションでの使用を想定されていますか。

LLC型の方は車載充電器への適用を考えていましたが、おっしゃる通りLLCコンバータ動作範囲を広げると効率が落ちるという欠点があって。そこで、DCXという技術を使います。これはLLCコンバータ自体に電圧レギュレーション機能を入れずに特定の動作点で使い、電圧変換については、一例として降圧チョッパを使います*。

降圧チョッパは非絶縁やし効率の面でもあまりネックにはならんし、降圧チョッパとLLC組み合わせて二つ使うと、トータルでは効率がいい、みたいな。


*DCXの電圧のレギュレーションは双方向チョッパ回路、昇降圧チョッパ回路、入力段のPFC部にて行うことが可能。(にとちん氏による補足コメント)


後半では、にとちんさんの技術に対するひたむきな姿勢が明らかに。



パワエレって産業応用的な側面が強いので、研究だけやっていても意味のあるものができるのかなって思って。


-----今後作っていきたいものはあったりしますか。

最近は仕事の方がパワエレ屋さんで、配属が主回路設計じゃなくて制御設計っていう。FPGAとかを使い始めたのでソフトをやってみたいですね。この前TANG NANOっていうFPGAを買いまして、自作CPUをFPGA内で作ってみたい。


------ここまで話を伺って、昔からとにかく手を動かして作るのが好きで、具体的に作りたいものがあまりないように見受けられます。その原動力は何からくるのでしょうか。

物の原理や仕組みを知りたいっていう気持ちで動いているんですかね。こう、作品を作るってよりかは、ものをバラしたり、組み立てたり。車の整備とかも同じ方向なんですかね。

自分で手を動かしながら動作を考えたり。実物を見ながら手を動かすのがやっぱ好きです。

工作もアイディアがあるってよりかは、作れそうだから作る、みたいな。


-----過去に作った作品で一番面白かったものはありますか。

気持ちのインタビューって難しいな。何作ったけなぁ〜俺。こういう時自分のパッとした作品無いの、困るねえ(笑)

結局レールガンとかテスラとかも流行ってるし、自分も作りたいし作るってなるもんな。

電子工作か研究か車で言うと、やっぱ研究かな。

テスラコイルとかコッククロフトウォルトン回路とか、電圧は高いけど動けばいいかで作ってるみたいなものがあるじゃないですか。でも研究で1kVオーダーでちゃんと電力を制御できるようにモデル立てるところから設計して動いたのが嬉しかったですね。


-----大学院でパワエレの研究をするのはかなりハードなイメージがありますが、にとちんさんはそれも楽しまれたように見えます。現在は就職されていますが、研究を続けたいとは思わなかったのですか。

実は進学するか就職するか迷っていたんですけれど、パワエレって産業応用的な側面が強いので、研究だけやっていても意味のあるものができるのかなって思って。まず産業界の方で勉強する必要があると思って就職しました。そこで学べたらDrに行きたいと考えています。

産業界って結局信頼性やコストが優先になるから、研究ですごいことをやってもあまり実用化されにくんじゃないかなという気持ちはあって。まあしょうがないとは思いますけど。複雑なものよりシンプルで確実に動くものが求められるしなって。

結局出てくるものってパワエレでも家電はフライバックのコンバータだし、産業界でも2レベルインバータや、せいぜいNPC3レベルのインバータが使われるなって。


-----話は変わりますが、にとちんボタン作りたいって私が言った時どう思いました?

「『にとちんです』って喋って。」っていきなり録音を求められて、気づいたらグッズになってて笑っちゃった! うれしいね。うれしい、俺もついにアイドルデビューか。

普段から携帯しているというにとちんボタン


-----私が大学生時代に始めたパワエレ同人誌のぱわみ社ですが、今回にとちんさんの鶴の一声で再開することになりました。何か狙いはありますか?

日本語のライトなところでパワエレの内容を発表したいなと思っていて。

というのも、海外文献が多い中で日本語で情報が少ないパワエレ研究の内容や、初心者や中級者がゆるくパワエレの動向を知れるコンテンツを作りたいなっていう思いがあります。他の著者のコンテンツを編集したら自分も勉強になりますし。

個人でいきなり始めるよりもみんなでやってるプラットフォームに乗っかるのもいいかなって。みんなで一緒になんかやりたいしね。ね?


-----何か周知しておきたい告知事項はありますか。

冬コミでぱわみ社新刊、パワーエレクトロニクス vol.3でます!みなさんパワエレ合同本、パワーエレクトロニクスをよろしくお願いします。

にとちんは双方向コンバータのレビューをかきます。先ほど紹介したものの詳細が読めると思うので、ぜひよろしくお願いします。


*コミックマーケットは2023/12/30に開催されます。詳しくは ぱわみ社公式Twitter をチェック。


-----最後に、ファンの皆さんに一言!

「「うかんむりや!」」


-----2023年10月。雨あがりの広場にて

文/写真 tueks