第三回 tueks x DoubleLift
仕事という切り口で人物像に迫るtueks x...
この連載では、tueksが過去に仕事を依頼をした人物にインタビューを行いその素顔に迫る。
第三回のお相手はミュージックプロデューサーのDoubleLiftさん。クライアントワークとオリジナル楽曲をバランスよく発表している彼ですが、現在は制作スタイルの転換期かもしれません。
2023.10.27
音楽をやっている人である ということ以上に言及する必要がないというか。
-----自己紹介をお願いします。
作曲や作詞、音作りなどをしているDoubleLiftです。
-----現在は数学を専攻している大学生だと伺っております。生活の中で音楽制作はどういう位置付けですか?
生活や大学と音楽とは全く関係ないというか。「音楽を作っている大学生です」とは言いたくなくて。ただ音楽をやりたいだけ、みたいな。自己紹介で音楽以外に触れたことを言うつもりがなくて短くなってしまいました。音楽をやっている人である ということ以上に言及する必要がないというか。みんな音楽を作ったり聴きたいだけですし、自分はそうなので... 変な思想があります。自分の美学的な部分ですかね。
-----作曲を始めたきっかけを教えてください。
高校生の時、UNISON SQUARE GARDENをめっちゃ聴いてて、自分もやりたいなと思って最初はバンドみたいな曲を作りました。ただ、バンドを組もうとはならなくて。協調性がないので、人とはやりたくないなって、選択肢がなかったんですよね。初めはiPadのGarageBandで曲を作っていました。その時のiPadはお母さんにあげちゃったので、曲が残っているかはわからなくなっちゃいました。
-----最初にバンド音楽を作っていたとは驚きました。現在の作風とは違うように感じますが、どのように変化していったのでしょうか。
DTMをやり始めたのが大学進学が決まったくらいで、偶然いつも遊んでいる友達にDTMをやっている人がいて。その人の影響でSoundCloudを聴き始めてから、作る曲がバンドみたいな曲からFuture bassとかに変化して。同人音楽にハマり始めた2021年あたりはTwinfield、PSYQUI、eleline△とかMEGALEXから出しているアーティストの曲を聴いていました。中でもTwinfieldやUjico*/Snail's Houseさんの曲がきっかけでFuture bassなどを作るようになりましたね。
DoubleLiftさん
-----音作りで意識していることや、影響を受けているものはありますか。
昔から不思議な世界観が好きだったので、水の音とか、逆再生の音が好きだったところからサウンドデザインが始まったと思います。ゼルダの伝説の効果音がまさにそれで。
あとは、雨音とかが好きでした。今でも雨が降っていると「おぉ」ってなりますね。雨の見た目も好きで。ビニール傘につく雨や、窓に付く雨とか。
雨が好きだから水のような音を作っているかと言われるとそうは考えていないんですよね。サウンドデザインの中でも実験的に作った音の中で採用やボツって言うのがあって。偶然生き残っているのかもしれませんね。水っぽい音が。
シンセでただ鳴らしている音はあんまり好きじゃなくて、リバーブやグラニュラーといったエフェクタに音を突っ込んで書き出したり、逆再生したりをして音を作っています。シンセ単体をエフェクタに入れても音が無機質になりがちなので、生楽器とレイヤーした音を突っ込んだりしていますね。生楽器の音にはKeyScapeっていうちょっと高めの鍵盤楽器があるんですけど、そういったサンプル音源をよく使用しています。そうすると、自然な音というか、音にオーガニック感が出ていいですね。
-----自分で楽器をやろうとは思わなかったのですか。
自分で楽器を弾いて録音したら...それこそ一番自然なので、最近はウクレレを練習しています。
高校生の時に沖縄に修学旅行に行ったんですけど、その時お土産に一銭も使わずに国際通りの楽器屋さんでウクレレを買ったんですよ。その時は弾いていなかったのですが、ずっと弾きたいなとは思っていて。今ようやく掘り出して練習しているところです。南国感もすごい好きなので。
-----実験的に作った音の採用やボツを決めるという話がありましたが、多数の音を事前に作っておいてそれを選んで楽曲制作をされているのですか。
賛否両論あるんですけれど、僕はランダム生成を使用してサウンドデザインをしています。それってあんまり実力とは言えないので良く思わない人もいるかもしれませんが.... 努力量は関係あると思うんですけれど。僕は実力が欲しいというか、いい曲を作れればいいと思っているのでランダム生成をよく使います。グラニュラーで作る音も狙って作れるわけではないので。色々なエフェクトに突っ込んでできた音のうち、水っぽい音やあんまり無機質でないものを録音として残しています。その音をもとに音楽を構成していく、というのがこれまでのやり方でした。
-----これまでのご自身の作品で、気に入っているものを教えてください。
NextLightに提供したFractalは結構お気に入りです。あと、tueksさんに提供したEP/Reflectionは全曲好きですね。今聴いたら拙いなと思う部分もあるんですけれど、曲としては好きですね。
後半では、DoubleLiftさんの作曲に対する心境の変化が明らかに。
音が強いクラブミュージックはあんまり常に聴きたいとは思わなくなっちゃって。
-----これからやっていきたいことはありますか。
今まではクラブカルチャーを意識した、いい音・強い音を鳴らしたいために音楽を作っていました。これから作るボーカルアルバムは作詞や世界観を大事にして、穏やかな音でリラックスできる音楽を作りたいなと思っています。
疲れた時とかはリラックスした曲を聴きたいなと思ったり、音が強いクラブミュージックはあんまり常に聴きたいとは思わなくなっちゃって。どちらかというと心の拠り所になる曲が好きなので、これからはそいうことをやりたい。
クラブ疲れるなって最近思ってきちゃって。DJも進んで自分からやりたいとは思わなくなってしまったんですよ。批判みたいになっちゃうんですけれど、DJは音楽を楽しみたい以外の虚栄心みたいなものがあることに自分が気づいてしまって。DJは自分の作っていない曲で盛り上げているときは気持ちいいんですけれど、曲をかけている時に原作者へのリスペクトが常にあるかと言われると、自分はそうではないかもなって。自分の作ってない曲をかけて得意になってしまう自分が嫌で。
今後は制作を頑張って、DJよりもライブをやりたいです。
-----ボーカルアルバムでは歌詞もご自身で書かれているのですか。
全部自分で書いています。これまでの曲も歌詞を誰かに任せたことはないですね。
歌詞の制作については、テーマみたいなものを決めてから先に曲を作り、メロディーを考えて、メロディーに対してこの発声になると気持ち良い歌になる...そんなことを意識しています。DTMで編曲しているときにメロディーを同時に考えることもあります。そこからはテーマに沿った単語を入れていって、文章として広げていきます。
こういうのをやっていると、日本語すごい良いなってなりますね。
日本人として日本語を使っているからというのものあると思うので気のせいかもしれないんですけれど。あいうえお以上の母音がないからすごく発音がはっきりしていて、メロと調和しやすいかなと思っています。リスナーとして聴いていても日本語綺麗だなと思います。ただ、最近よく聴いているジャズシンガーは全部英語ですから英語は英語で別の良さがあるな、と。
-----話は変わりますが、クライアントワークで意識していることを教えてください。
特に最初の方は何も気を遣わずにクライアントワークをやっていたのですが、一回企業案件のBGMで自分が普段やっていたクラブカルチャーのままに曲を作ったばっかりに「低音やキックが強すぎます」と言われてしまって。それ以降はTPOをわきまえた曲になるように気をつけようと思いました。想像力が欠けていて、それはそうだなって後から思うんですけれど。
tueksさんのために提供したEP/ReflectionもTPOをある程度わきまえて作りましたが、特にスピーカーの特性上低音がガンガン鳴ってもいいので、クラブミュージックを作る意識のままで作りました。あとは、20分と長めの尺が決まっていたので同じ曲調では聴き疲れするかもしれないと思い5曲とも曲調に変化をつけました。EPの構成としては最後は穏やかに終わって、始まりも穏やかめがいいかなというところを考えていました。順々に聴いていって、自然な流れになるように。
あと、結構パワフルなスピーカーだったのでトランジェントに少し意識した音作りを入れようと思いました。一曲目のドロップはマシンガンのようなアタックが合うかなと思って。
Reflection-EPは、ワイヤレススピーカーex-01のために書き下ろして頂き、コンテストや展示の際に使用している。
-----最後に、ファンの皆さんに一言!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
-----2023年10月。公園にて。
文/写真 tueks